慰安婦問題日韓合意
慰安婦問題日韓合意
慰安婦問題日韓合意(いあんふもんだいにっかんごうい)とは、2015年(平成27年)12月28日の日韓外相会談で結ばれた、日本軍の慰安婦問題を最終かつ不可逆的に解決するために行われた日本政府と韓国政府の合意である。
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[非表示]概要[編集]
日韓両政府は2015年(平成27年)12月28日の日本の岸田文雄外務大臣と韓国の尹炳世外交部長による外相会談後に行われた共同記者発表で、慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認すると表明し、岸田外相は「当時の軍の関与のもとに多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、日本政府は責任を痛感している」と強調、「安倍晋三首相は日本国の首相として、改めて慰安婦としてあまたの苦痛を経験され心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に心からおわびと反省の気持ちを表明する」と語り、尹外相は「両国が受け入れうる合意に達することができた。これまで至難だった交渉にピリオドを打ち、この場で交渉の妥結宣言ができることを大変うれしく思う」と述べ、韓国政府が元慰安婦支援のため設立する財団に日本政府が10億円拠出し、両国が協力していくことを確認した[1]。会談では、日韓両政府が今後国連など国際社会の場で、慰安婦問題を巡って双方とも非難し合うのを控えることも申し合わせが行われた[1]。
この合意の内容については、日韓で公式な文書を交わすことは行わず、日韓の両外務大臣が共同記者会見を開いて発表するという形式で行った。
同日、日韓首脳電話会談で両国首脳は慰安婦問題をめぐる対応に関し、11月の日中韓サミットの機会に行われた日韓首脳会談から協議を加速化し合意に至ったことを確認し評価した。安倍晋三内閣総理大臣からは、「日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明」し、その上で「慰安婦問題を含め、日韓間の財産・請求権の問題は1965年の日韓請求権・経済協力協定で最終的かつ完全に解決済みとの我が国の立場に変わりないが、今回の合意により、慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に」解決されることを歓迎」した。朴槿恵大統領からは、「今次外相会談によって慰安婦問題に関し最終合意がなされたことを評価」するとした上で、「新しい韓日関係を築くために互いに努力していきたい」と発言があった[2]。
韓国の中央日報の報道によれば、文言のうち「最終的」は日本、「不可逆的」は韓国が提案したものである[3]。10億円の拠出については尹炳世が「金が出てこそ(日本)政府が責任を認め、謝罪したことになる」として自分が要求したと国会外交統一委員会で答弁した[4]。 2015年12月 日韓両政府は長年の問題となっていた慰安婦問題について解決すべく合意に至る。
1 岸田外務大臣
日韓間の慰安婦問題については、これまで、両国局長協議等において、集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき、日本政府として、以下を申し述べる。
(1)慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。 安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。
(2)日本政府は、これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ、その経験に立って、今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には、韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。
(3)日本政府は上記を表明するとともに、上記(2)の措置を着実に実施するとの前提で、今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。 あわせて、日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。
2 尹(ユン)外交部長官韓日間の日本軍慰安婦被害者問題については、これまで、両国局長協議等において、集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき、韓国政府として、以下を申し述べる。
(1)韓国政府は、日本政府の表明と今回の発表に至るまでの取組を評価し、日本政府が上記 1.(2)で表明した措置が着実に実施されるとの前提で、今回の発表により、日本政府と共に、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。韓国政府は、日本政府の実施する措置に協力する。
(2)韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する。
(3)韓国政府は、今般日本政府の表明した措置が着実に実施されるとの前提で、日本政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。
尹炳世(ユン・ビョンセ)の発言
国交正常化50年の今年中に岸田外相とこれまでの交渉に終止符を打ち、この場で交渉妥結を宣言できることをうれしく思う。 今回の合意のフォローアップ措置が着実な形で履行され、辛酸をなめさせられた元慰安婦の方々の名誉と尊厳が回復され、心の傷がいやされることを心より祈念する。 また両国の最もつらく厳しい懸案であった元慰安婦被害者問題の交渉が妥結したことを機に、来年からは新しい気持ちで、新しい日韓関係を切り開いていけることを期待する。
日本側の履行状況[編集]
日本政府は韓国政府が設立する元慰安婦を支援するための財団(「和解・癒やし財団」)に10億円拠出することを約束し、2016年8月31日に履行した[5]。
拠出金は韓国政府によって設立された「和解・癒やし財団」によって慰安婦に現金支給され、生存する慰安婦のうち46人中36人が受け取りをしている。死去した慰安婦に対しては、35人の遺族が引き取りを表明している。[6]
韓国側の履行状況[編集]
韓国政府は、ソウルの日本大使館前にある慰安婦像について「日本政府が、大使館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行うなどして、適切に解決されるよう努力する」と尹炳世外交部長が発言した[1]。
日本の岸田文雄外務大臣は会談後、記者団にソウル日本大使館前の慰安婦像の扱いについて「適切に移転がなされるものだと認識している」とし、慰安婦問題に「終止符を打った」と述べた[1]が、前述のように韓国政府は慰安婦像については「可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する」と述べたのみであり[1]、慰安婦像の移転は合意履行(合意内容の詳細は下部リンク先「外務省 日韓両外相共同記者発表」を参照)の前提ではないとして慰安婦像の移設は履行されていない。
合意事項中の「韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の慰安婦像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する」[7]とは反対に、韓国人による慰安婦像の建立は合意後も国内外で盛んに行われ、崔順実ゲート事件による朴槿恵大統領の職務停止後はとりわけ勢いをつけ、2016年12月30日には釜山市東区の日本総領事館前の路上にも慰安婦像が釜山市東区の許可を得て設置された。2017年1月6日、日本政府は対抗措置として、
2017年1月10日、副総理兼財務大臣の麻生太郎は『日韓通貨スワップ協定協議の中断』に関し、「約束した話が守られないなら(韓国に)貸した金も返ってこない」と早期再開に否定的な見解を示した[10][11]。
2017年5月3日、韓国女性家族省は従軍慰安婦問題に関する報告書でソウルの日本大使館前の慰安婦像の撤去は約束ではなく、「本質的な合意が誠実に履行されようやく検討される『付随的な合意』にすぎない」と報告した。なお「内容は研究陣の意見で、女性家族省の公式の立場ではない」としている。[12]
追加支援の要請[編集]
韓国政府と日本政府が慰安婦問題について「最終かつ不可逆的に決着」を宣言したため、韓国政府は外交交渉で慰安婦問題を取り上げることができなくなった。そのため、下記にあるように韓国国民の溜飲が下がるような謝罪を日本政府から自主的に提案してくることを求めている[13]。日本政府は追加の措置については応じる理由がないとして拒否している[14]。
2016年9月29日、韓国の外交部報道官は記者会見で安倍晋三総理大臣が謝罪の手紙を慰安婦に送るという韓国の元慰安婦支援財団が求めている追加の措置に関連し、「韓国政府としても、日本側が慰安婦被害者の方々の心の傷を癒やす、そうした追加的な措置をとるよう期待している」と述べたが、9月30日の記者会見で岸田文雄外務大臣は「日韓合意の着実な実施が重要だと日韓で一致している。日韓合意は昨年12月に発表されたとおりで、それ以上でもそれ以下でもない。追加的な措置については一切合意されていない」と否定した[15]。
2016年10月13日、韓国の尹炳世外相が1970年に西ドイツ首相のヴィリー・ブラントがワルシャワでナチス虐殺の犠牲者に謝罪したワルシャワでの跪きを取り上げ、韓国人の感性に訴える措置を追加で行うことを求めたが、日本側は拒否をした[16]。
2016年10月12日、韓国最大野党の共に民主党の姜昌一議員は韓国人元慰安婦が生活するナヌムの家を訪問し、「私たちはお金ではなく、(日本政府の)謝罪を受けたい」という韓国人元慰安婦に対し「いつか日本国王や首相が来てひざまずいて謝罪するでしょう」と述べた[17]。
2016年12月30日、朝日新聞は社説で、日本政府が合意事項で約束した「元慰安婦支援のため設立する財団に日本政府が10億円拠出」を履行したことについて、慰安婦の3割が金銭の受領を拒否していることを挙げて「日本政府が真に謝罪していないとして反発を強めている。」「元慰安婦らに寄り添いつつ、不幸な歴史を教訓として、永遠の不戦の誓いなど普遍的な問題に昇華させ、人権の向上に努めることではないのか。」と追加の措置の必要性を説き、「慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決」は合意内容を履行することだけではなく、日韓の心が通い合わないと根本的な解決は図れないと主張した[18]。
合意破棄の運動[編集]
韓国内では、もともと野党を中心に慰安婦日韓合意そのものに反対があったが[19][20]、2016年10月に朴槿恵大統領の友人崔順実による国政介入疑惑が発覚すると、合意も「崔順実容疑者に操られていたのではないのか」との批判が起こり合意撤廃の機運はさらに盛り上がった[21][22][23]。
2016年9月5日、合意に反対している最大野党「共に民主党」所属の姜昌一議員(日韓議員連盟幹事長)はインタビューで「(合意は)国家を拘束する条約や協定ではなく、安倍(晋三)政権と朴槿恵政権の約束にすぎない」として「両政権がやったことだから、再交渉の必要はないが、われわれは認めていない」と主張しており、長嶺安政駐韓大使と会談した際、こうした認識を伝えたという一方で「互いに良い方向を模索していくべきだ」とも述べた[24]。10月12日には外交統一委員会の議員らが毎年訪れている韓国人慰安婦が生活するナヌムの家を訪問し、日本軍慰安婦のイ・ヨンスから「10億円を返して、『和解・癒やし財団』を廃止せよ」「なぜ(政府が)勝手にするのですか。それはいけません。」と叱責を受け、要望を果たすことを約束した[25]。2016年10月18日、韓国の女性家族部長官の姜恩姫は、合意について「多くの被害女性の方々は賛成し、この合意に感謝の気持ちを表現している。」「反対している方もいらっしゃるが、現在把握しているところでは少数だ。」と述べたが[26]、同年10月24日に発覚した崔順実ゲート事件で朴槿恵大統領が失墜すると、韓国挺身隊問題対策協議会と慰安婦は集会などで合意破棄と「和解・癒やし財団」に対しても「初めから存在理由がなく、即刻解散すべきだ」との主張を始め[21]、12月には韓国の次期大統領選挙有力候補9人が慰安婦問題日韓合意の再交渉または廃棄を選挙公約に掲げ[22]、韓国最大野党の共に民主党も政権交代が実現した場合、日韓合意を破棄することを公約とした[23]。
在日大韓民国民団の呉公太団長が、慰安婦像の撤去が「在日同胞たちの共通した思い」と発言したのに対し、ハンギョレ新聞によると、東京外国語大学の金富子教授は「在日同胞全体を代弁するものではない」と述べている[27]。
文在寅政権[編集]
2017年5月10日に合意に批判的な共に民主党候補の文在寅が韓国大統領に当選。文は5月11日にも安倍晋三と電話会談を行ったが、その中で慰安婦合意について「国民の大多数が心情的に合意を受け入れられないのが現実」と述べた[28]。
6月12日には訪韓した安倍晋三の特使二階俊博が文と会談したが、文は「日本が韓国国民の心情をくみ取ろうとする努力が重要だ」と述べたという[29]。また同日二階は共に民主党代表秋美愛とも面会したが、秋はこの会談についてfacebookの中で慰安婦を「性奴隷」と表現したうえで、二階に対して日本の謝罪と再交渉を求めたと記している[29]。
反応[編集]
日本側の反応[編集]
日本は与野党ともに歓迎の意向を表明している[30]。世論調査でも日韓合意は肯定的に受け止められた[31]。
肯定的評価[編集]
- 櫻井よしこは、日韓合意は両国関係を改善し、緊迫感が増す世界情勢の中で日米韓の協力を容易にしたとして、安全保障の観点から日本の短期的外交勝利を評価した。一方で、国際社会では「保守派の安倍晋三首相さえも強制連行や性奴隷を認めた」と逆に解釈され、歴史問題に関する国際社会の日本批判の厳しさは変わっていないと指摘した。だからこそ、安倍首相は以前よりずっと賢い永続的な情報発信をする重い責務を負っているのだと述べた[32]。
- 井上寿一は、「安倍首相は『慰安婦問題』を安全保障の観点から考えている」とし、「日韓合意の成否は双方が新しい安全保障関係を構築できるか否かにかかっている」との見解を示した。対立が続く両国の外交関係を修復するのは容易ではないとはいえ、アメリカを介して日韓が安保協力を進める余地が生まれたと評している[33]。
- 和田春樹によれば、日本軍慰安婦問題解決全国行動は、12月29日に「日本政府は、ようやく国家の責任を認めた。安倍政権がこれを認めたことは、四半世紀もの間、屈することなくたたかってきた日本軍慰安婦被害者と市民運動が勝ち取った成果である」と声明で評価し、一方で「総理大臣のお詫びと反省は、外相が代読、あるいは大統領に電話でお詫びするといった形ではなく、被害者が謝罪と受け止めることができる形で、改めて首相自身が公式に表明すること」とも批評した[34]。
- 日本の曹洞宗による「東国寺を支援する会」(慰安婦像設置を推進する日本唯一の団体)は、慰安婦問題に否定的だった安倍首相の急激な方針転換は、平和や人権を尊重する市民の声に屈したとして歓迎を表明した。[35]
否定的評価[編集]
- 青山繁晴は、自身が日韓合意の直前に安倍首相に反対の意向を伝えたことを明かし、「安倍総理は、日本だけではなくアジアの史観を公正にするためにも再登板した。『軍の関与の下』という表現で自ら、嘘を致命的に固定する役割を果たしては、天命に反する。安倍総理の本願は『日米対等』だ。日韓合意は、オバマ大統領から要請されたから、対等への一手段として総理が決意した。総理はこれを機に『嘘は嘘である』と世界へ立証することも決断すべきだ」と主張した[36]。
- 水島総は、日韓合意を「河野談話と比較にならないほど国家的な重大過失だ」と批判し、「『慰安婦は性奴隷だった』といった韓国の主張を日本政府が公式に追認したと理解されても仕方ない。海外の報道機関でもそのように報道されている」と主張した[37]。
- 呉善花は、「(日韓合意)の賞味期限は半年間だ」、「日韓合意は口約束。(正式な外交文書である)1965年の日韓基本条約すら守らない韓国が、今回の合意を守るわけがない」と述べ、韓国側の出方を注視する必要があるとの考えを示した[38]。
- 西岡力は、日韓合意は安全保障の観点では評価できる部分があるにせよ、国際社会での相互批判を自制するとしたことにより、今後「断固たる反論」ができなくなるのではないかとの懸念を示した。さらに、国際社会では「日本政府が、第二次大戦中に20万人のアジア人女性を性奴隷として強制連行し、人権を蹂躙した事実を認め、韓国政府に10億円を支払うことに合意した」という虚偽が広がっているとして、日本国の名誉回復抜きの慰安婦合意は評価できないと主張した[39]。
- 吉見義明は、日韓両政府が被害者を抑圧して、解決したことにする強引なものであるとあるとした。さらに、「最終的かつ不可逆的に解決され」るということができるのは政府ではなく、被害者だけであるはずだと主張し、[40]和田春樹から合意を受け入れた慰安婦被害者に対する非難になるとして批判を受けた[34]。
その他[編集]
- 山口二郎は「日本の右派が韓国女性を誹謗中傷することも、不可逆解決に反する」「安倍政権が自民党右派及びその背後の右翼の無知、偏見を的確に批判し、日本政府の公式見解に反することを厳しく処断することができるかどうかが問われる」などの見方を示した。産経新聞は「民間の言論をも『処断』するよう政府に求め、言論の自由への抑圧を主張したとも受け止められかねない発言だ」と山口の発言を批判した[41]。
- アジア女性基金のフォローアップ事業で外務省から年間1000万円の資金提供を受けていた慰安婦を支援するNGO団体は「和解・癒やし財団」の設立に伴ってフォローアップ事業による資金提供の停止されることに対して、フォローアップ事業の継続を求めている。[42]
韓国の反応[編集]
朴槿恵大統領は、合意が行われた12月28日に国民向け談話を発表し、「韓日関係改善と大局的見地から、今回の合意について(元慰安婦の)被害者と国民の皆さんが理解してくださるよう願う」と呼びかけた[43]が、韓国では合意に対する国論が紛糾しており、韓国の与党セヌリ党は「日本政府の責任を明示したという点で相当に進展した」として歓迎する一方で、韓国の最大野党である「共に民主党」は「決して受け入れられない」と強く反発している[19]。在日本大韓民国民団は韓国の主要三紙に意見広告を掲載し、合意を支持することを表明、韓国国民にも合意を成立させた韓国政府を支持するように訴えた[44]。一方で韓国挺身隊問題対策協議会は「被害者と国民の望みを徹底的に裏切った外交的談合」と非難している[20]。
また、この合意を受けて、「日帝強占下サハリン強制動員抑留被害者韓国残留遺族会」や韓国人原爆被爆者などの団体・個人も、1965年の日韓請求権協定とは別に、日本政府から補償を得るように韓国政府に求める活動を開始している[45]。
韓国世論調査リアルメーターでは、野党「共に民主党」支持層を中心に慰安婦像の移転について否定的な意見が多数を占め、66%が反対している[46][47]。しかし、民主的な手段で選ばれた大統領が結んだ合意であるため、もし合意を反故にすれば、韓国は「国際的な合意を守れない国」という不信感を持たれる事は避けがたい。このため、識者の大半は合意を批判しつつも、合意は守るべきだと主張している[48]。
元慰安婦の一人(ソウル在住)は、毎日新聞のインタビューに応え、「(合意は)とても良かったと考えている。子孫にまで持ち越さず、私たちの代で解決してくれた」と賛同を表明し、合意を着実に履行するよう求めた。慰安婦像についても、別の場所に移しても良いと回答した[49]。
海外の反応[編集]
アメリカ合衆国で唯一、公共の場に慰安婦像を設置しているカリフォルニア州グレンデール市のナジャリアン市長は、「外交上の成功を歓迎する」「両国の行動で解決することを喜んでいる」とし、「オバマ大統領も先週、両国の首脳と会い、改めて(合意を)支持した。グレンデール市も支持する」との声明を表明した[50]。
国連の女性差別撤廃委員会は、2016年3月に公表された対日審査会合に関する最終見解で、旧日本軍の従軍慰安婦問題について、日本政府の取組みはなお不十分と指摘し、日韓合意を実行に移す際には元慰安婦の意見に十分配慮するよう日本政府に勧告した。前回2009年の会合で日本政府に勧告していた元慰安婦らへの賠償や加害者の訴追などを含む慰安婦問題の「持続的な解決」を探る努力を、依然実行していないとして「遺憾の意」を示し、日韓合意について「元慰安婦らを中心としたアプローチを完全には取っていない」と指摘、元慰安婦らの「真実、正義、償いを求める権利」を保証し彼女らの立場に寄り添った解決を目指すよう求めた[51]。
国連の自由権規約委員会は、2016年3月に開かれた日本などの人権状況に関する会合で、日韓合意について元慰安婦らへの謝罪表明や責任の認識を「大きな進展だ」として前進がみられたと評価する一方、人権侵害行為調査や加害者の刑事責任追及などは「努力がみられない」と指摘した。ない、国連では日韓合意をめぐり、ゼイド・ラアド・ゼイド・アル・フセイン人権高等弁務官が「元慰安婦被害者自身から疑問の声が出ていることは非常に重大だ」と述べるなど、批判的な論調が相次いでいた。[52]
2016年1月、国連の潘基文事務総長は、朴槿恵大統領との電話会談で、日韓合意について祝福し、「朴大統領がビジョンを持ち、正しい勇断を下したことを歴史は正しく評価する」とした[53]。また、潘の後任として事務総長に就任したアントニオ・グテーレスは、2017年5月に安倍晋三首相と会談し、日韓合意を支持する考えを示した[54]。
脚注[編集]
- ^ a b c d e 岸田外相、慰安婦問題「終止符打った」 日韓合意:日本経済新聞
- ^ 外務省 日韓首脳電話会談
- ^ “日本が謝罪を覆せないよう韓国が入れた「不可逆」が足かせに”. 中央日報. (2017年1月12日) 2017年1月12日閲覧。
- ^ “公館前設置は不適切…尹外相が慰安婦像問題で表明”. 民団新聞. (2017年1月18日)
- ^ 毎日新聞2016年8月31日 19時58分 元慰安婦支援 政府、10億円の送金手続き完了[1]
- ^ 統合ニュース2016.12.24 現金受け取り表明の慰安婦被害者 5人増え34人に=韓国財団[2]
- ^ 外務省 日韓両外相共同記者発表
- ^ http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170109/k10010833291000.html
- ^ 韓国・釜山の慰安婦像設置に政府が対抗措置 駐韓国日本大使ら一時帰国へ 産経新聞(2017年1月6日)
- ^ 麻生太郎氏「韓国に金を貸せば返ってこないかも」 韓国側は反発【通貨協定めぐり】 ハフィントンポスト(2017年1月11日)
- ^ 麻生副総理「韓国に金を貸せば返ってこないかも」 中央日報(2017年1月11日)
- ^ 少女像撤去「約束ではない」 韓国が報告書 日本経済新聞(2017年5月3日)
- ^ “「慰安婦合意、追加措置を」 韓国外務省”. 日本経済新聞 朝刊. (2016年9月30日)
- ^ 日本経済新聞 2016/9/30 9:51 日韓慰安婦合意、外相「追加措置の要請応じず」 [3]
- ^ 産経新聞2016.9.30 10:27岸田文雄外相「追加措置は一切合意されていない」 安倍首相の謝罪の手紙を否定[4]
- ^ 統合ニュース2016/10/13 16:51 西独首相はひざまずき謝罪 日本に措置求める=韓国外相[5]
- ^ ハンギョレ新聞2016.10.13 01:08 ナヌムの家の慰安婦被害者たち、訪問議員らに「お金ではなく日本政府の謝罪を」[6]
- ^ 朝日新聞2016年12月30日05時00分 (社説)慰安婦合意 後戻りさせないために[7]
- ^ a b 共同通信 2015/12/28 18:28 韓国政界、歓迎と失望で二分 「法的責任回避」と野党 [8]
- ^ a b 統合ニュース 2015/12/28 18:25 元慰安婦支援団体 韓日合意を「外交的談合」と非難[9]
- ^ a b 産経新聞 2016.11.4 元慰安婦らが日韓合意の破棄訴え「崔順実氏に操られたのではないか?」[10]
- ^ a b ハンギョレ新聞 2016/12/28 次期大統領選挙有力候補9人「慰安婦合意、再交渉または廃棄」[11]
- ^ a b ハンギョレ新聞 2016/12/28 10:25 日本との慰安婦合意「政権交代後、無効にする」=韓国最大野党[12]
- ^ 時事通信2016/09/06-14:27 対日関係「破綻回避を」=慰安婦問題で韓国側議連幹事長[13]
- ^ ハンギョレ新聞2016.10.13 ナヌムの家の慰安婦被害者たち、訪問議員らに「お金ではなく日本政府の謝罪を」[14]
- ^ “韓国女性家族部副長官「韓日慰安婦合意、被害女性ほとんどが賛成…反対は少数」”. 中央日報. (2016年10月19日) 201016-10-19閲覧。
- ^ ハンギョレ新聞 2017.01.17 00:52 「“少女像撤去”は在日同胞の共通した意見ではない」 [15]
- ^ “安倍晋三首相、日韓合意見直しを牽制 韓国の文在寅大統領と初の電話会談 文氏「双方が賢く解決できるよう努力」”. 産経新聞. 産経新聞社. (2017年5月11日) 2017年5月13日閲覧。
- ^ a b “文在寅大統領、日韓合意に「時間が必要」…友好ムード演出も道険し 韓国与党代表、二階俊博氏に慰安婦問題で謝罪要求も”. 産経新聞. 産経新聞社. (2017年5月11日) 2017年5月13日閲覧。
- ^ “村山元首相「よく決断」 与野党、一定の評価”. 日本経済新聞 朝刊. (2015年12月29日)
- ^ 読売新聞2016年05月12日 慰安婦合意、日韓で「評価」隔たり…共同調査[16]
- ^ 祖国の名誉のために闘わぬ外務省に「性奴隷の国」からの名誉回復は任せられぬ産経新聞2016.2.1
- ^ テロと核の脅威に新しい国家像描けるか 学習院大学学長・井上寿一産経新聞2016.1.20
- ^ a b ハンギョレ新聞 2016.03.26 18:29 和田春樹教授、徐京植教授の公開書簡に答える(上)[17]
- ^ 日本軍「慰安婦」問題を解決するために 一戸彰晃 2016年1月13日発行 韓国『現代仏教』特別寄稿
- ^ 慰安婦日韓合意、私は総理に「反対」を伝えた 作家、国家戦略アナリスト・青山繁晴産経新聞2016.4.30
- ^ 保守系団体が「重大過失」と批判 都内で集会産経新聞2016.2.7
- ^ 慰安婦合意「賞味期限は半年」 呉善花・拓殖大教授が福岡で講演産経新聞2016.2.1
- ^ 禍根残した「慰安婦」日韓合意 国際社会に流布された虚偽に「断固たる反論」をできなくなりはしないか? 西岡力産経新聞2016.1.6
- ^ 真の解決に逆行する日韓「合意」 なぜ被害者と事実に向き合わないのか 岩波書店 世界 (雑誌) 2016年3月号
- ^ 産経新聞2015.12.31 13:30 政府に言論弾圧要請? 民主ブレーン山口教授「公式見解に反したら処断を」[18]
- ^ 時事通信 2017/03/19-22:04 「元慰安婦支援「継続を」=日本のNPO代表」[19]
- ^ 産経新聞 2015.12.28 21:04 朴槿恵大統領が異例の国民向け談話「大局的見地から理解してくださるよう」[20]
- ^ 在日本大韓民国民団 「慰安婦問題の韓日合意に対し本国主要三紙に意見広告」[21]
- ^ 赤旗2016年1月3日 「慰安婦」問題 日本政府との合意 韓国世論を二分 強制徴用・原爆被害者らから批判[22]
- ^ “慰安婦問題:少女像の移転反対66% 韓国世論調査”. ニュースサイト「毎日新聞」 (毎日新聞社). (2015年12月30日) 2016年11月23日閲覧。
- ^ “韓国国民の66.3% 少女像移転に「反対」=世論調査”. 聯合ニュース. (2015年12月30日) 2016年11月23日閲覧。
- ^ ロバート・E・ケリー(釜山大学校准教授) (2016年4月27日). “韓国総選挙の惨敗と朴槿恵外交の行方”. ニューズウィーク 2016年11月13日閲覧。
- ^ “元慰安婦「良かった」…履行求める”. 毎日新聞. (2016年6月18日) 2016年6月18日閲覧。
- ^ 慰安婦像設置の米グレンデール市 市長が日韓合意を支持「成功を歓迎」 議会も支持決議の公算、日本非難に歯止めか産経新聞2016.4.7
- ^ 元慰安婦に十分配慮を 国連委、日本に勧告 日本経済新聞2016/3/7
- ^ 国連委、慰安婦日韓合意に一定の評価「大きな進展」 日本経済新聞2016/3/22
- ^ “国連事務総長、日韓の慰安婦問題合意を評価 「正しい勇断下した」”. 日本経済新聞. (2016年1月2日) 2017年5月28日閲覧。
- ^ “首相 国連事務総長と会談 北朝鮮問題 緊密連携で一致”. NHK. (2017年5月27日) 2017年5月28日閲覧。
外部リンク[編集]
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